天文学業界の論文数(続き)

 さて天文学研究業界全体で論文数が少なくなると何が困るか?(そう言えば以前に自然科学のある分野などでは、筆頭著者論文は教授・助教授クラスになって、プロジェクトを立ち上げてその成果が出た時でないと書けない、などという話を聞いた、本当だろうか?)閑話休題。業界内部では論文数にある程度コンセンサス(?)があるので、業界内で閉じている場合には問題無い。問題になるのは、他の業界と接触する時である。具体的に言えば、公募で求められている人材の専門分野が「実験物理学」とか「自然科学であれば特に分野を問わない」(本当にある)などという場合だ。天文学業界で標準的な論文数であっても、それでは論文数で他分野(主に物理学、化学、生物学)からの応募者に勝てないのだ。平均的な論文数で、自然科学の他分野と張り合えるのは、X線天文学分野くらいではなかろうか?
 すると、折角天文学が入り込んでポストを増やせる機会があっても、それは決して天文学のものにはならないのだ。特に小規模の教室や研究室での公募では、他分野・他教室にも意見を図らねばならないので、なおある程度の論文数が求められる。ある小機関では、人事の際に、応募者と典型的な天文学研究者の業績数(論文数がメインだったらしが)を比較することで、他分野の研究者を納得させたと聞いている。まぁそのくらい天文学研究者の論文数は少ない訳だ。
 ちなみに某大学で教員業績を数値化する時に、各研究分野で典型的な研究者の業績数をリサーチ(論文検索データベースを使えば簡単な作業だ)して、それと比較すべきだ、という意見が出たらしいが、化学や生物学分野の研究者から大反対を受けたとのこと。主な理由は分野ごとの典型的な業績数をリサーチするのに手間がかかる、ということだったらしい。しかし天文学分野で典型例を抽出するのに、数日であったことを考えると、これは本当の理由ではあるまい。元々自然科学には論文数が多い分野と少ない分野があり、単純に論文数で比較するようにしないと、有利になれない分野がそれなりにある、ということだろう。
 勿論、人事は今後数年から場合によっては数十年の同僚を選ぶ作業である。単純に論文数だけで選ばれる訳ではないのは以前にも述べたが、その業績を何らかの数値にしてみせなければならないのもまた事実なのだ。おっとまた話が逸れた。兎にも角にも、浮動ポストとも言える地方国立大学や私大においても天文学研究者のポストがほとんど増えない(全く増えていない訳ではないが)のは、天文学研究者の生産論文数の先天的な少なさにも原因があるのではないだろうか?元々自分の研究が一番面白く重要である、というのが研究者の本音である。そんな研究者の業績を単純な論文数や論文引用数、論文ページ数などで評価しようというのが無理なのだ。まぁ差を付けるためには仕方ないけれど。
 なので、天文学研究者のアカポスを狙う若人達よ。地方国立や私立大学にもポストはある、などとは考えないことだな。時々つまらない論文なら何本でも書ける、という奴もいるが、それならまず何本でも書いてみせてくれ。