みんな〜アカデミックポストが欲しいか〜!

 挑発的なタイトルにしてみた。天文学研究者目指して日々喘いでいる若者にしてみれば、このタイトルに対する応えは「当たり前だ!」となるだろう。特に大抵のケースで「論文を沢山書けば研究者になれる」と指導を受けるため(ホントか?)、大学院生やOD(注1)、PD(注2)は目の色を変えて論文を書くことになる。君達、ハッキリ言って好きな研究が好きなだけ出来て、しかも論文なんかを執筆する時間があるのは、今のうちだけだ、せいぜいた沢山書いておいてくれ。ただし論文書くだけじゃあいつまでたってもアカデミックポストは取れないぜ。
 まぁ分からない人のために、ここで簡単に天文学に関連した大学や研究所の職制を述べておこう。まず一般に偉い順に「教授」「助教授」「常勤講師」「助手」となる。これに加えてPDや定年された先達が就くポジションとして「非常勤講師」があるが、これは上記の職制からは外れたポストだ。「教授」「助教授」「常勤講師」は教授会のメンバーであり、特に「教授」は最終的な人事権などを握ることになる。従って将来学長を狙う場合の一つの手としては、教授になって人事権を握り、仲間を多く登用する、なんてことがある(ホント?)訳だ。一般には大学で独立に講義が出来るのは「教授」「助教授」「常勤講師」だけである。「助手」はあくまで補佐役として「実験」「演習」を担当する。ただし自然科学系では「助手」でも実際上講義を担当することが多い。「常勤講師」は事実上「助教授」と考えていい。年齢がまだ若い、とかあと数年で「助教授」ポストが空くのでこの人材をキープしたい、などという場合に「常勤講師」のポストが使われる。特に内部昇進では無く、外部から助教授クラスの人材を取った場合は、まず「常勤講師」にしておいて、翌年とか2・3年後に助教授に昇進させるケースが多い。結局、ほとんどの場合は「教授」「助教授」「助手」というポストだけを考えれば良い。解説が遅れたが、最初に述べたアカデミックポストというのはこの常勤職である「教授」「助教授」「常勤講師」「助手」のこと。しかも若造は大抵の場合「助手」からスタートだ。その意味では「非常勤講師」も研究職であるのだが、任期があるか無いかという意味で、普通「非常勤講師」はアカデミックポストに含まれない。同様に「非常勤研究員」も同じである。
 しかしここに来て、大学の職制が変わる。平成19年度から従来の『「教授」「助教授」「常勤講師」「助手」』が『「教授」「准教授」「常勤講師」「助教」「助手」』となるのだ。まず一つは「助教授」が事実上独立した研究者であり「教授」を「助ける」という意味にそぐわないため、これが「准教授」となる。「教授に准ずる」という訳だ。また「助手」は研究分野によって複雑になっている、という実情がある。具体的に言うと自然科学系の「助手」は博士号を取得し「最前線で働く一人前の研究者の一人」という扱いだ(少なくとも天文学ではそうだ。ただし論文の再現性で先日槍玉にあがった東大の教授は「助手の指導ができていなかった」とコメントしているので、自然科学系でも一人前でない「助手」がいるのだろう)。よく「実験に失敗ばかりして教授に怒られる助手」というキャラクターが漫画に出てくるが、天文学では考えられない「助手」像だ。それに大して人文科学系や社会科学系の「助手」はまさしく「助手」だ。博士号はおろか修士号も不要で、就職できなかった卒業生が臨時に雇われるケースなどが多いようだ。土屋賢二氏のエッセイに出てくる助手がこれに近いイメージだろう。また自然科学系でも同様の「助手」が存在する。助手と言っても場所が変われば品変わるで、将来の助教授・教授候補としての助手、とあくまで補佐役としての助手、がある訳だ。今回の職制変更では前者が「助教」になり、後者が「助手」のままになる。これによって範囲が広かった「助手」をきちんと区別しようという訳だ。
 
(注1) OD=オーバードクターの略。和製英語との噂も聞くがpuncponk自身は確認していない。大学院博士課程を修了し、博士号も取得したが、大学や研究機関に入学金と授業料を「支払って」そこの図書・資料や研究機材・研究環境などを使用する権利を獲得した身分。一般には大学院研究生と同義。履歴書では学歴として記載できる。学生証も発行してもらえるが、学割証明書は発行してもらえないし、研究会出席や観測のための旅費も出してもらえない。さらに身分継続は2年までなので、3年目をやる場合はまた入学金を払わねばならないケースもある。結構辛い身分。

(注2) PD=Post Doctoral fellowの略。通称ポスドク。大学院博士課程を修了し、博士号を取得した後、大学や研究所で非常勤研究員として給料をもらって大学や研究所の仕事をしながら自分の研究を行う身分、「ポスドク研究員」と言うこともある。多くの場合1年毎更新最長2年まで、もしくは2年契約である。天文学業界では数年前までは国立天文台の非常勤研究員や教務補佐員、東京大学の非常勤研究員くらいしかなかったが、最近は21世紀COE(Center Of Excellence)プログラムに採択された大学などでもこれに基づく研究員(COE研究員)が採用できるようになったため、ポスドク研究員の数は飛躍的に増大した。ただしあくまで非常勤なので、任期が切れた後はまた別のポスドク研究員に採用されるか、任期無しのアカデミックポストを得なければ、研究で食べることを諦めるかODになることになる。ODほどではないにしても、やっぱり辛い身分に変わりは無い。