汝ら狭き門より入れ

『汝ら狭き門より入れ、滅びに至る門は大きく、その道は広く、これより、入る者多し。生命(いのち)に至る門は、狭く、その道は細く、これを見出す者は、少なし。』(マタイ第7章)
 
 これは聖書の言である。私自身はキリスト教信者ではないが、天文学者へ至る道を語る場合、この言はなかなか意味深である。天文学者はその性質上、アマチュア天文を趣味とする一部の若人が最後に求める場所ともなっている。これは一見自然なことに見えるが、私達本業のものから見ると極めて異様なことである。ドライブが好きだからと言ってF1ドライバーにはなれない、リトルリーグに所属していたからと言って野球選手にはなれない。それと同様にアマチュア天文をやっていたからと言って、天文学者になれる訳では無い。アマチュア天文家は、観望用の望遠鏡を見事に操作して、フィルムやカメラの特性を抑え、素晴らしい天体写真を撮影する。この知識と技術は研究者としての技能とはほぼ独立したものだ。我々の仕事はむしろ画像データから、その背景にある物理過程を解明することにある。従って必要になるのは望遠鏡やカメラの操作技術ではなく、物理・数学的知識になる。つまりアマチュア天文は趣味で行うには問題ないが、これをやったからと言って、他の者より有利に天文学者になれるかというと「NO」なのだ。逆に不利になると言っていいかも知れない。

 しかし意外とアマチュア天文が趣味だった天文学者は多い、実は彼らは趣味と研究の大きな違いを理解した上で、趣味は趣味、研究(仕事)は研究(仕事)と割り切って「狭き門」を通った人達なのである。アマチュア天文の入り口は楽しく面白く、その気があれば誰でも気軽に通ることが出来る。しかしこの門の先は決して天文学研究者には繋がっていない。アマチュア天文という宇宙への入り口はまさしく「大きな門」なのだ。