天文学は何の役に立つ?---イントロ編

 本日は、最近何回か書いては結局アップロードしなかったネタでついに愚痴る(笑)ことにする。
 「天文学って何の役に立つんですか?」。初めて会った人や大学の旧友にすら聞かれる質問だ。向こうは会話の糸口と思ってのことだろうが、もう少し何とかならないものか?まぁ天文学研究者の業界でもしばしば問題に取り上げられるネタでもある。
 この問いに対する模範回答は、「天文学を学ぶことによって、現在我々が生きている世界観・宇宙観を養うことができ、これによって自然環境に対する認識と理解を深めることが可能である」という感じだろうか?しかしこの回答を聞いて「天文学はやっぱり役に立つ」と思う人がどれほどいるだろう。私の個人的意見としては「この程度の回答しか示せないが故に、一般に天文学は役に立たないと思われているのだ」というものだ。まぁ天文学が無くても人間は生きていける、その意味では天文学は不要と言えるだろう。しかしそうすると、小説家・漫画家・棋士・アニメーター・芸能人はおろか大多数のサラリーマンも不要になってしまう、極論ではあるが...しかし彼らが「それって何の役に立つんですか?」と聞かれることはあるまい。おそらく天文学研究者の多くが国立研究機関・大学の職員であり、自分たちの税金を使って研究が行われている事への疑問・疑念がこのような質問をさせるのだろう。

 もしも「天文学は役に立たないから止めてしまえ」と言われたら、我々天文学者はどう反論できるだろうか?一つの例としては「アメリカのヘール望遠鏡の鏡が開発されることによって、耐熱ガラスの技術が大きく進化した。これによって化学や薬学で使用している耐熱性の高いフラスコやビーカーが安価に大量に製作できるようになった。従って天文学が役に立たないと言うのであれば、その人は耐熱性フラスコやビーカーを用いた実験による今までの一切の科学的成果の恩恵を受けてはならない。」というものがあるかも知れない。これはほぼ全ての化学物質と薬剤の使用を止めよ、ということになる訳だ。上記の反論内容は全て事実であるが、後半は勿論ジョークだ。これは化学や薬学なら何でも役に立つ、と思い込んでいる方々へのアンチテーゼと受け取って頂きたい。化学にしろ薬学にしろ、その研究のお題目は、社会に大きな恩恵をもたらすかのように聞こえるが、よく考えて欲しい。化学・薬学というだけで、それらの研究全てが我々の生活に恩恵をもたらす訳ではないのだ。