みんな〜アカデミックポストが欲しいか〜!(その3)

 この挑発的なタイトルでの日記はこれで最後になるかな?正直アカデミックポストを得た私自身にも、どうすれば天文学者としてのアカデミックポストを得られるか、はよく分からない。だが幾つかの要因を挙げることは出来る。前回も書いたがこれからの天文学研究者は「40歳までに准教授(助教授)ポストを取れるかどうか」が運命の分かれ道になると思われる。これではとても他人に進められる職業では無い(笑)、実際に進めてないし...だがそれでも天文学研究者になりたい、という若人のために、その幾つかの重要な要因をお知らせしておこう。
 まずその一。論文を沢山書けば、本当にアカポストが得られるのか?最近の天文学会年会では、天文教育フォーラムの中でOD・PD問題が取り上げられており、そのまとめは「天文月報」(日本天文学会の会報誌)に掲載されている。ここにも明記されているが、大抵の募集先において「研究しか出来ない、研究にしか興味が無い、研究しかしない」という人は、全く理想的な人材では無い。前にも書いたが大学において一番重要視されているのは大学の運営、各種委員会活動および講義・実験・演習の実施だ。個人の研究の実施は軽視すらされていると言える(その割りに昇進の時にはこれが効くのだ!何という矛盾???)。従って、研究論文は人事絡みの会議で認めてもらえるだけの数があれば良い。私がアカポスを得る前に、いろいろな方々から聞いた話では「助手狙いならば5本あればOK、これ以上は20本あっても特別有利にはならない」(勿論例外はあるだろうが)とのこと。つまり論文が5本くらいあれば、候補には十分残れる可能性があるということだ。助教授(准教授)狙いであれば、5本では足りず、大抵の公募書類では10本くらいが求められている。さらに助教授ともなれば科研費の獲得数なども重要なポイントとなる。著書などもあれば好印象を与えられるだろう。
 次にその二。プラスアルファで売り込める点があること、である。ADSで検索すれば一目瞭然だが、助手狙いで論文5本以上とか助教授狙いで論文10本以上、などという条件は大抵の若手や中堅どころには該当する条件だ。ただし助手ポストに限って言えば、論文数が例外となることも結構あり、それが「プラスアルファ」の売り込み点が強い場合である。具体的に言えば、論文はそれなりに書いている(勿論0でなければ5本より多少少なくても構わない)が、ある一点において他者を遥かに凌駕する能力や業績を持っている(勿論単純な論文数以外で)、ということである。例えば機器開発のある重要部分についてはこの人材でなければダメだ、とかソフトウェア開発においてこの人材は様々な処理方法に通じていて自由自在にコードが組める、といった点だ。このポイントは『誰でも出来ることでは無く、こいつじゃないとダメだという「換えの効かない人材」になること』だ。これは特に機器開発・ソフトウェア開発で実績を挙げる場合に重要だ。だが機器開発やソフトウェア開発に参加するだけでは、このような「換えの効かない人材」になることはまず有り得ないので要注意だ。
 さらにその三。コネ、である。実際のところはコネというと御幣を招くのだが、要は人となりをどれだけ売り込めるか、だ。これはある意味で業績以上に重要だ。若者たちは何故そんなものが業績以上に重要なのだ?と思うかも知れない。ひょっとすると卑怯だ、と思うかも知れない。しかしここでちょっと採用する側に立って考えてみて欲しい。ポスドクであればどんなイヤなヤツでも2年我慢すれば居なくなる。しかしアカポスは別だ。ヘタすれば自分が定年退職するまで一緒の職場にいるのだ。イヤなヤツと数十年間一緒だぞ?君なら我慢できるのか?従って採用する側が『こいつを仲間に入れたらグループが上手く機能しそうだよなぁ』という人材になる必要がある訳だ。アカポスをゲットしたらこいつは我々と仲良く一緒に働いてくれるだろうか?自分の研究ばっかりしてこちらに全く協力してくれないんじゃないか?こいつがネットワークに長けていたらオレは少し楽ができるなぁ。学部生にプログラミングくらい教えてくれるといいなぁ。実験と演習くらい任せられるヤツなら嬉しいなぁ。なんてことを考えながら適任者を選ぶのだ。教授や助教授はただでさえ○○委員会だのXXワーキンググループだの学内の役回りばかりで研究どころではないのだ。新入りの助手や助教授がそれを横目で見ながら研究ばかり出来ようはずもあるまい。君はそうは思わないか?そうハッキリ言おう「人となり」も実力なのだ。所詮論文数は実力を測るパラメータの一つでしかないのだ。
 あと最後に意外と見落とされがちな要因がある。それは君たち応募者の年齢と、応募先の教員の年齢構成だ。独立行政法人化に伴って、大学や研究所教員の人事は原則公募となった機関が多いと思う。しかしながら例え公募が建前であったとしても、前述したような理由から助教授(准教授)以上の人事は事実上内部昇進になるような機関も決して少なくないだろう。現在所属している助手が役に立たない(必ずしも論文を書かないという意味では無い)のであれば別だが、そうでない限りは「人となり」が保証されている現在の助手を助教授(准教授)に昇進させた方が確実では無いかね。さてここで問題の年齢構成だ、例えば君達が助手に応募した大学なり研究機関なりで、ほぼ同世代の助手が既にいる場合、君達がそこに採用される可能性は少ないだろう。同世代の助教授、ましてや君よりも年下の助教授がいたりしたら、それはもう絶望的である。特に応募先が小さい組織であればなおのことだ。君が既に着任している助手だったらどう思う?自分よる年上の人間が新入りとして入ってくるのは少し気が引けるだろう?ましてや君が助教授だったら年上の助手なんか取れるはずないではないか?いくら役職は君より下でも、年上の人に雑用を頼めるか?勿論例外はある、しかし年齢構成は重要視されるケースが多いぞ、例え公募条件が「XX歳までの方」であってもだ。